読書の秋に(広報10月号の町長コラム)
この町で一番好きな季節は、秋である。
黄金色に輝く稲穂を包み込む青空は、いつにも増して天高く広がり、豊かな実りの薫りは私たちに収穫の喜びと活気を導き出し、農業の豊かさを教えてくれる。
小学校低学年の時、両親が籾摺りをする納屋の中で、稲わらの上で寝てしまった経験が、私の幸福中枢を刺激しているのかもしれない。
同時に私は、夜が長くなっていくこの季節、本が恋しくなる。
上川地方に住みながら、地元の三浦綾子さんの著書を読んだことがなかったが、隣町の町長との雑談の中で話題となり、薦められた「泥流地帯」(上下巻)を手始めに、「塩狩峠」、「母」と拝読した。(「氷点」は いまだに積読(つんどく)ですが…。)
家族の命や農地を一瞬に呑み込んでしまった十勝岳泥流。自然災害の恐ろしさに人間の無力を感じながらも、人にとって大切なものを見つめ直し、不遇にこそ人一倍強い意志と労わりの気持ちが未来を拓く力となることを教えられ、実直な生き方に胸が熱くなる。
「書籍は青年には食物となり、老人には娯楽となる。病める時は装飾となり、苦しい時は慰めとなる。特に夜と旅行と田舎においては、良い伴侶となる」とは、欧州の哲学者が遺した言葉だ。
良書は、人を豊かに育てる糧になるとも言われているが、町の図書室には水先案内人になり得る3人の司書が居られる。ぜひ、みなさんも秋の夜長に新しい自分を発見できる良書を探しに、図書室に出掛けてみてはいかがだろうか。